前回のあらすじ
『おしゃれは別世界』だった私、大人の扉を開いて香水の下見をする
3人で「これいいね」「金木犀の香りだって!」「やっぱりベルガモット好きだなぁ」「ローズは優しいい女の子って感じするよね」「うわ、こういう甘ったるいのは苦手」と小声で盛り上がってると、他のメーカーも試そうよという。
二人にノセられて最初にいったのが
まさかのCHANEL
……えっ、まってまって、敷居高い。高過ぎる。マジで高過ぎるんですけど!!!
一気にハイブランドの階段を駆け上がっていく母と叔母、思わず足がすくんでしまった私。母はテスターを備え付けの紙にシュッと吹きかけてパタパタとあおぐ。
「ほら、いい香りでしょう?」
うん、全然違う。(なお値段も全然違う。)
あんな小さな瓶なのに万超えてるってマジか……とビビる私。でも、心はすごくときめいている。そのままの流れで最新作や母の鏡台にあったものなどを試していく。
叔母さんが「今度はANNA SUI見てこようよ(※超ANNA SUI大好き)」と言われてANNA SUI、JILLSTUARTと渡り歩いていくものの、CHANELに戻ってくる。
柑橘の香りの後に爽やかさを含んだ甘い香りが素敵だと思えた。「これならお出かけって感じだし、オールシーズン使えるね」と母は嬉しそうにしている。もう一度香りを感じて「よし、今度百貨店行くときに絶対買おうっと!」と心に決めて、去ろうとしたとき。
「hari、せっかくだから買っちゃえば?」
……は?
突然、母が軽いノリで言った。「買っちゃいなよ」「どうせ1年で使い切れないよ。そう考えたら悪くないんじゃないの?」「hariのことだから次に行ったときはやっぱり買わないとか言いそう」と、猛プッシュしてくる。
CHANELの美容部員のお兄さんよりも母が勧めてくる謎展開。しかも私の母はただの母親ではない、元大手化粧品メーカーの美容部員。現役を退いて30年以上経ったとはいえ、めちゃめちゃ説得力のあるコトを言ってくる。(ちなみに現在は試食販売のおばちゃんである。)
「じゃあお母さんがちょっとだけ出すよ。だから買っちゃいなさい」と言われてしまい、じゃ、じゃあお言葉に甘えて……と、CHANELの香水を買ってしまったのであった。
帰りの車で「なんであんなに香水勧めたの?」と聞いてみると
「実はね、お母さんがおじいちゃんから初めてもらった香水がCHANELだったの。hariがちゃんとした香水を買うならCHANELからにして欲しかったの」
初めて聞いた話だ。祖父はアメリカ人で私が生まれる前に亡くなったが、色々なエピソードがある。優しいけれどとすごく厳格な人であったため、門限ギリギリになると木刀を持って家の外に立っていたとか。
驚いていると、おじいちゃんはお洒落な人だったからね。靴はいつもピカピカにしてたし……と母が続ける。娘に香水をプレゼントするなんて、とても紳士的な人だったんだろうなぁ、と思った。
高い買い物だから大切に使おう。香水の便が入った箱を見て思った……が、このときの私はまだ知らないのである。
翌年、母と出かけてもう一本香水を買ってしまうことを。