90年代後半、日本にも微かだがNew Jack Swing(以下NJS)の波がきてたのではないかなと思う。
ただ、当時は「R&Bは何の略か?」と言うと「ライスアンドブレッド」という答えが冗談抜きで返ってくるし、ヒップホップも然程メジャーなジャンルではなかった。
土壌が出来上がってないのだ。洋楽のような大ブームは起きず、宇多田ヒカルさんの登場というビッグウェーブの到来により、微かな波は飲まれてしまう。
……だが、当時リリースされた隠れた名曲は、今も決して色褪せていない。
まずは、その中から4曲ほど紹介したい。
DA PUMP "Feelin' Good -It's PARADISE-"
DA PUMPのデビュー曲。
DX7シンセのキラキラ感とビート、スクラッチが絡み合うことによる生まれるグルーヴ感が気持ち良すぎるし、ラップも積極的に取り入れていたりする。
NJSのギラついた空気感を上手く薄めてかつ恋愛を歌い、ガツンと濃い感じではなく乗りやすさを重視したグルーヴ。
R&Bの意味がわからなくても、ラップを知らなくても、これぐらいなら耳に馴染みやすく、丁度いい塩梅だと思ったのだろう。
また、DA PUMPはavexが音楽シーンの多種多様化に対して斬新な音楽を送り出すために作ったレーベル『avex tune』の第一弾アーティストでもある。
NJSのエッセンスを浸透させ、J-POPに新たな風を吹かせたかったのかなと……と、私は思ってます。
(ジャンルは違えど、同レーベルのm.o.v.e.もラップを積極的に取り入れてるしね。)
BLACK BISCUITS 『STAMINA~スタミナ~』
当時の人気バラエティ番組での企画物のナンバー。
ビートがガツンと効いている方だが、メロディーの日本っぽい感じと太さが上手くハマってすごく聴きやすくて乗りやすい。
うねりのあるファンキーなシンセとホーンの派手さはインパクト抜群、イントロからAメロ、AメロからBメロ、サビの繰り返し……というように、曲の空気感が変わるときに入る独特なビートが絶妙。
(……だが、『Timing~タイミング~』の方が売上が倍であるため、その影に隠れてしまってるという現実。私は圧倒的にこっちが好きです。)
この2曲はNJSのサウンドを上手くJ-POPに取り入れた例だが、濃厚なサウンドでそのまま勝負しようとしていたアーティストもいる。
SKOOP(現:Skoop On Somebody)とSPEEDだ。レコード会社側に「濃い」と言われて薄めたりお蔵入りになったそうだ。
SKOOP "Process of Luv"
1stアルバムトップバッターに持ってくる濃さじゃない。いい意味でどうかしてる。
1拍目に鈍いハイハットみたいな打ち込みでインパクトをつけ、KO-ICHIROさんの打楽器みたいなシンセがビートの隙間に入り作られるグルーヴ。最高。
コーラスまで自分で重ねてるTAKEさんの歌声はもちろん、最初から囁いて語りかけるのは誘惑みたいで、NJSの持つ夜感や不埒さまでもしっかり持ってきている。
でも当時は、レコード会社と「濃すぎるからやりたいことを6割でやってくれ」「7割じゃダメですか?」というような交渉を行ったとのこと。
Skoop On Somebodyのレギュラーラジオでメンバーが語るエピソードを度々耳にします。
……この曲がどれぐらい薄められたのかはわからないけど、本格的な物を作っても却下され手直ししたという現実は泣けてくる。
SPEED "STEADY"
SPEEDのミリオンセラーシングル。
私自身、『邦楽マイ・ベスト20』に入れるぐらい大好きで5歳の頃から擦り切れるぐらい聴いてる。
高音のビートがとても効いていて気持ちよく、しっかり重低音も鳴っていて、エレキギターがすごくいい仕事をしている。(特に、サビ前は絶対聴いてほしい)
サビでは甘酸っぱい歌声に華を添える鐘の音が最高にハマってる。島袋寛子さんの歌声が素敵すぎる。
この曲は、松尾潔さんが提案したミックスエンジニアが作ったバージョンがお蔵入りしたそうです。(これ知ったときびっくりした。)
96年、TLC"Waterfalls"をミックスしたアトランタのニール・ポーグに2nd「STEADY」を委ねることをぼくは提案。ところがトップの「コレ黒すぎ」の一言でお蔵入り。東京でやり直したバージョンが150万枚のヒットに。
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) March 6, 2021
あれほど大きな学びもなかった。
アトランタミックスは、4年後のベスト盤で陽の目を。 pic.twitter.com/FU73ohrv9D
聴き比べてみたが……正直な話をすれば、アトランタミックスはビートがボーカルを食い潰してる感じがする。あと、サビのシンセがまとまりがない感じがする。
あの甘酸っぱい歌声が目一杯スポットライトを浴びているシングル盤の方がいいと私は思った。
(しかし……ベスト盤まで寝かせるのではなく、"Body & Soul"のように3曲目4曲目にいれるという選択肢は無かったのだろうか。通には絶対刺さると思う。)
ここ最近、料理でいうと小さじ程度だがNJSのエッセンスを感じる楽曲を耳にするようになってきてる気がする。
ハネ感があるグルーヴィーなサウンド、すっと耳に入ってくるフロウな歌声、少し練習すれば口ずさめそうなラップ。そういう曲に出逢うと、ワクワクする。
NewJeans"Supenatual"のように、空気感や香りまでも90年代をそのまんま持ってきたような感じではないが、それでも自信持ってオススメできる楽曲を3つ紹介したい。
ウルトラ寿司ふぁいやー テクマクマジック
2020年リリース。アーティスト名やMVのサムネだけだと再生する気は起きないかもしれないけど、騙されたと思って再生してほしい。
ビートの完成度が100点満点で200点。ハネ感や音の抜き差しがいいし、シンセのキラキラサウンドもハマってる。
そしてなにより、歌声がとてもフロウで揃っていてラップも入っている。
リードボーカル2人とラップを担当したメンバーは学生アカペラ出身の実力派だからできることだろう。
M!LK "Kiss Plan"
2024年リリース。隠し味でNJSのエッセンスを取り入れた感じだけど、アイドルグループがこんな曲やってるコトにすごくワクワクした。
音数豊富で情報量多過ぎてグルーヴが埋もれちゃってるけど、ビートのハネ感とかは残ってるしサビのフロウな感じもいい。
スクラッチやラップ、こっそり囁くのを取り入れたりしていて。NJSが持つ、いい意味で危なげな色恋の雰囲気を現代のJ-POPに反映されてる。
シンセが歌声に華を添える役割をしているから、ベースやギターでグルーヴィーにしているけど、それでもグルーヴィーな感じは損なわれてないから、代役としてハマってると思う。
Ayumu Imazu "Butterfly"
2022年リリースのAyumu Imazuくん×今井了介さんプロデュース。このお二人が組むとマジで名曲率高いです。
『デンッ!デンッ!』とインパクトのある音、超低音のピアノ、太いシンセベースが危険な香り含んだサウンドをしている。
フレッシュな高音の歌声は、ビターな感じを含んでいて、いい意味で苦くて甘くて不穏な感じがする。
初めて聴いたとき、間奏で昔のNJSビートがまるっと出てきた部分には思わず「かっこいいー!」と声出た。NJSが流行ったときのコトを肌で感じているであろう今井さんの技だと思ってる。圧巻。
まとめ
NJS=ダサいみたなコトをたまに見るけど「そうなの?」と思う。アナログ感や音色はともかく、単に難しいだけじゃないかな。
(ただ、ダンスがダサいと言われたら、踊らない私にはわからないけど。)
多分、洋服屋さんで海外のモデルが着てるものと同じ服を着ても「コレジャナイ」と思ってしまうのに近い感覚のかなと思ってる。
ビートはハネ感に加えて、細かいビートも入れて気持ちいいグルーヴにすればいいってわけじゃない。シンセやギターなどでグルーヴを彩るコトも必要だし、そのうえ歌のフロウな感じもすごく求められる。
それを日本人が苦手とする裏拍でやらなきゃいけないし、緩急のある歌詞が書きづらい日本語で挑まなきゃいけない。
日本語の歌詞はふにゃふにゃになりやすいのだ。
……とはいえ、全く『できない』では無いんだよね。実際、大ヒットした曲や色褪せない曲がある。
そのうえ、現代ではR&Bは音楽ジャンルと確立されたし、Creepy Nutsが"Bling-Bang-Bang-Born"で世界的にバズった。
(ちなみに、"Bling-Bang-Bang-Born"は、DJ松永さん曰く「趣味で作った曲」だそうです。)
故に、今はNJSが浸透する意味チャンスじゃないかなと思ってる。
生む側の苦労苦悩は聴く側の私にはわからないけど……どんどんチャレンジしてほしいですね。
そして、J-R&BのサブジャンルのひとつとしてNJSが定着することを願ってます。